タマオクロニクル(2)転送

-国立研究所所長回想録-


合成マシュマロと融合したことにより「猫のような何か」になってしまったチャミィ。融合が不完全だったのか体毛に色素がなく猫のもつヒゲも存在しない。

しかし感覚器官は体内に備え、体内に蓄積された膨大なエネルギーも尾の部分から放出できる。生存に必要な機能は問題ないらしい。

そして何よりもマシュマロの遺伝情報を組み込むことにより自己分裂増殖が可能になったようだ。見知らぬ地で寂しい時に活用してくれ。

空気中に含まれるイオンを元にあらゆる無機物と核融合させることで食料問題にも対応した。微弱な電磁パルスによる振動で表面を綺麗に保つこともできる。

綺麗好きな猫にとっては大切な部分……そうだろう?

この無機質生命体にチャミィの記憶が残っているのかは分からない。しかし私はチャミィの命を最優先に考えた。幸せならそれでいい。

送り出す時代と座標はとりわけ大事だ。未来は滅びが確定しているから過去に送り出した方が良いだろう。できるだけ安全なところに……。

しかし私は過去を文献でしか知らない。

だいぶ以前に世界人口が2億人を切ったところで国家が解体され、人々は集落と呼ばれるごく小さなコロニーの中で協力しながら生きている。

私の研究所の入り口には「上野市」と書かれているが、これが国家だったのか都市だったのかは分からない。

過去の文献には「台東区上野」と記されたデータがあるが、大部分が破損しているため確実な情報を手に入れることができないのだ。

憶測で愛猫を送り出すには忍びないのだが残念なことに他に方法がない。

この施設に残された時間はもう僅か。あと数日で破壊の使いがこの地にも訪れるだろう。「彼ら」は何を思い、文明を破壊するのだろうか?

それではチャミィ……お別れだ。

私は時空転移装置のスイッチに手をのばした。これが最後の瞬間である。どうか、新しい地で幸せに生きてくれ。

私は時空転移装置のスイッチを押した。座標を確認すると設定した「上野市」ではなく見知らぬ地名が表示されている。

どうやら私の設定した時代に上野市はないらしく、キーワードに入れておいた「安全」を自動的に探して座標を変えたようだ。

そして鈍い音が施設内に響き渡り、目の前には見たことのないような青と白の光の渦が巻いている。

綺麗だ……。

失いかけていた人間の感情に思わず小さな涙がこぼれる。人類は精一杯生きた。この光景がその証である。

私は消え行くチャミィの姿をただずっと眺めていた。その時……、チャミィがこちらを向いて何かを言ってきたような気がする。

私はチャミィの口元の動きを一生懸命追いかけた!

 

あ…り…が…と…う


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